古典
『黄帝内経』を読み解く:気血・経絡・養生の基礎
『黄帝内経』(素問・霊枢)は、思想・用語・枠組みを形づくった古典。ここでは書誌史から代表章の要点、気・血・津液、蔵象、経絡観、四時の養生、そして研究の限界まで、学習用に整理する(診断・治療・予防は扱わない)。
1. 書誌と構成(素問・霊枢 / 版の差)
『黄帝内経』は対話体の章句からなり、一般に素問と霊枢に大別される。伝本や注釈の系譜により章名・配列・語釈が異なり、版差を前提に読む必要がある。
部 | 主題の傾向 | 備考 |
---|---|---|
素問 | 蔵象、陰陽・五行、病因病機、養生観など | 思想・理論の枠組みが中心。章名は版で揺れる。 |
霊枢 | 経脈・経穴、刺鍼・取穴の記述が多い | 技法・経絡観の描写が目立つ。 |
- 注釈史:唐代の王冰注、宋以後の校勘、明清の版本など。
- 読解の姿勢:歴史的文脈の中で「比喩」「見立て」を含む語りとして扱う。
2. 代表章の要点(版差を前提にした概観)
四時調神(素問系)
- 季節ごとの過ごし方を比喩的に説く。
- 「むさぼるな・怒りすぎるな」など節度の語り。
※具体の生活指導というより、思想的な“養生観”。
陰陽・五行(素問系)
- 対立と循環の関係で状態を把握する枠組み。
- 対応表は因果の証明ではなく整理のルール。
経脈・絡脈(霊枢系)
- 流動・連関を路線図的メタファーで語る。
- 現代解剖学の臓器=経脈ではない(目的が異なる)。
刺鍼法(霊枢系)
- 鍼の種類・深さ・角度などの記述。
- 歴史的な技法記録として読む(現代の医行為とは異なる)。
3. 気・血・津液(概念と位置づけ)
気は働き・動きの概念、血は滋養・濡養、津液は体内の液分を広く指す語群。いずれも枠組み上の概念であり、現代の生理学用語に安易に一対一対応させない。
語 | 学習メモ | 章の例 |
---|---|---|
気 | 推動・温煦・固摂・防御などの働き | 素問・霊枢の諸章 |
血 | 滋養・精神活動との関連の語り | 素問諸章 |
津液 | 津(希薄)と液(濃厚)の区別が語られる | 素問諸章 |
4. 蔵象の概観(機能観としての“臓”)
蔵象は機能関係の見取り図。現代解剖学上の臓器と混同しないよう注意する。
蔵・腑 | 学習用キーワード | 関係の例 |
---|---|---|
肝 | 疏泄・伸びやか | 木/情:怒/季:春(版差あり) |
心 | 神・温煦 | 火/情:喜/季:夏 |
脾 | 運化・中焦 | 土/中心/飲食の比喩 |
肺 | 宣発粛降 | 金/収斂/秋 |
腎 | 蔵精・温養 | 水/寒熱の要 |
※表は歴史的な対応関係の例。版・流派で差がある。
5. 経絡観(十二正経と要点)
十二正経は上肢/下肢 × 陰/陽 × 太陰・少陰・厥陰/陽明・太陽・少陽などの区分で語られる。以下は学習用の索引(略号は一般的な英字コード)。
略号 | 名称(例) | 区分 |
---|---|---|
LU | 手の太陰 肺経 | 手・陰 |
LI | 手の陽明 大腸経 | 手・陽 |
ST | 足の陽明 胃経 | 足・陽 |
SP | 足の太陰 脾経 | 足・陰 |
HT | 手の少陰 心経 | 手・陰 |
SI | 手の太陽 小腸経 | 手・陽 |
BL | 足の太陽 膀胱経 | 足・陽 |
KI | 足の少陰 腎経 | 足・陰 |
PC | 手の厥陰 心包経 | 手・陰 |
SJ | 手の少陽 三焦経 | 手・陽 |
GB | 足の少陽 胆経 | 足・陽 |
LR | 足の厥陰 肝経 | 足・陰 |
- 奇経八脈(任・督ほか)は別枠として語られることが多い。
- 「禁忌」「注意」は時代・系統で差があるため、歴史的記述として扱う。
6. 四時の養生(比喩的な生活観)
季節ごとの心身の保ち方を比喩的に述べる。倫理・節度を説く文脈が強く、現代の健康指導に直結させない。
季 | キーワード | 語りのトーン |
---|---|---|
春 | 生発・伸びやか | 抑え込みすぎない |
夏 | 成長・発散 | 過度の疲弊を避ける |
秋 | 収斂・整理 | ととのえ・節制 |
冬 | 蔵・静養 | 過度の放散を戒める |
7. 現代の研究と限界(読み方の指針)
- 用語標準化:名称・訳語・位置づけの整合性を確認。
- 研究デザイン:系統レビュー・RCTの限界や異質性を前提に読む。
- 断定回避:歴史的概念を現代の効果と直結させない。
- 出典明示:章句・注・版本をできる範囲で示す。
8. よくある質問(Q&A)
単一の著者が書いたの?
複数時代の編纂・注釈を経た複合的古典と考えられている(諸説)。
蔵象は現代の臓器に対応する?
蔵象は機能・関係の枠組み。現代解剖と一対一対応ではない。
養生の記述は現代の健康法?
思想的・比喩的な語りが中心で、医療的助言ではない。
図でみる見取り図(学習用)
参考文献(抜粋)
- 『黄帝内経』素問・霊枢(諸版)
- 王冰注ほか、歴代注・校勘
- 経穴名称・用語標準化関連の公的文書
注意:本記事は一般的な学習を目的とし、特定の診断・治療・予防を目的とするものではありません。体調や治療に関する判断は医療機関等にご相談ください。免責事項/編集ポリシー